『向日葵の咲かない夏』

山田詠美『アニマル・ロジック』を彷彿とさせる状況設定です。あるいは、川上弘美『神様』と同じにおいのテンションがある。ほか、書き方の視点はちょっとはずれるかもしれませんが、三島由紀夫『美しい星』も同様なノリがある。


上に共通するのは、突拍子もない設定である、という点です。


下手するとメルヘンやSFもどきになってしまうのですが、動物や細胞や宇宙人がふつうにしゃべっていて、登場人物の誰も、そのあたりの非現実性には突っ込まず当然のこととして物語が展開されてゆきます。


向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)


しかもそれがいかにも自然なことであるかのように、読者に感じさせてくれるのです。そして、その子供だましになりがちな非現実的な設定が、物語の質を落としていない、むしろ高めているという点が、上に挙げた小説の共通の魅力であり作者の技量です。



ところで、みなさんもご存知でしょう、通販の英語教材に、シドニー・シェルダン『家出のドリッピー』というベストセラーがあります。小説をCDで聴いて、耳で英語を覚えるという趣向の教材です。ドリッピー = 水滴・雨だれ。この教材、面白いですよね。


ナレーションは、昔ばなし口調で「ア、ローング ローーーング、タイム ア ゴォゥ〜〜」と詠んでくれる。
子供であるはずのドリッピー君の声優、声色老けすぎだけど超コミカル。
『向日葵の咲かない夏』のなかに、蜘蛛の姿の登場人物がいて、その蜘蛛君のあり方が、ちょうどドリッピー君のコミカルな表情と似ていたので『家出のドリッピー』を思い出した次第です。はい。


『向日葵の咲かない夏』自体は、心理工作的にトリッキーであるといえこそすれ、コミカルとは評せない内容ですけどもね・・。どちらかというと現代風の重い小説です。