『モーム短編集』

モームの長編は、短編で書いてきたことをただ書き直しているだけなんですね。毎回、同じことを繰り返し、状況や人物を替えて書き直しています。


瀟洒な世界と底辺の生活、高貴な社会的立場と下賎な身分、高邁な精神と下世話な精神。モームのほとんどの作品の主人公は、上のすべてに通ずる矛盾した性格の人物です。


太平洋 (新潮文庫 モ 5-9 モーム短編集 2)

太平洋 (新潮文庫 モ 5-9 モーム短編集 2)


もっといえば、モームが好んで描いた人物は、社会生活から逸脱してしまった人間です。逸脱してしまっている張本人はあっけらかんと幸せで、周りの常識人は世間体に縛られて右往左往する、というパターンが多い。


冷めた客観的視点から、社交界や田舎の人間の特性を鋭く描き出しています。ほんとうに人間に興味があって、それを観察することが好きだったんだろうなぁ。