犬と社会(ワン)

犬は飼い主に似るという。これはほほえましい通説などではなくて、事実に迫った痛烈な皮肉である。
私は仕事柄、犬と生活していらっしゃる方のお宅へ訪問する機会が多く、これまで何組もの飼い主とその愛犬に接してきた。


子供が裸の王様へ向かって「裸の王様だ」と、子供らしい悪意のない残酷さで、大人世界の偽空気をぶち壊してしまうのと同様に、犬が人間社会の本音と建前ムードを判断して行動することは、まずない。


ここで困ったことが起きる。


犬の行動は、人間や他の動物たちと同じように表情豊かであるから、一挙手一投足が、はからずも普段の生活模様や思考様式を、直接に反映してしまうのである。それをみるたびに、私はよそ様の冷蔵庫や押入れの中を思いもかけない拍子に覗き見てしまったような、身の置き所のない恥ずかしさに襲われる。
ちょうど、言葉を覚えたての3歳児が、世間体を無視したセリフを妙に年寄りぶった口調で話して、周りの大人たちを笑わせるときのような。あれは・・普段、親御さんが舞台裏でしゃべっている会話のコピーであることも多いのである・・。