トマト -1-

カフカの変身ではないが、朝、目が覚めると、背中がベッドに張り付いたまま剥がれなくなっていた。


多少元気なときはグータラ気分の方が勝って、そのままうだうだしている。しかし今日はトマトのようにゴロゴロし続けてたら死ぬかもしれん、そんな危機的状況のなか、しぶとく書物を顔の横に広げ横目で活字を追いながら、なんとか生き延びなければと、別の頭では不安を募らせていた。


そうこうしながら限界まで張り付けの刑に甘んじていたが、吹雪の夜、睡魔に負けてしまい翌日つめたくなった遺体が朝日を浴びているところを発見され・・の夏バージョンが誕生しそうだったので、きしむ筋肉に鞭打ってやっとこさ起き上がる。
前日までチャキチャキ、身だしなみを整えあちこち飛び回っていた自分の記憶をいぶかしく思うほどに、この日は水道まで這っていくのもままならない。
2週間にわたり、まったく休みがとれなかった末の、ひさびさの休日の朝の出来事である。


さて、私は体力が消耗すると何も喉を通らなくなる、というデリケートな体質ではなく、むしろ疲れているときの方が、精力的にご飯を食べるタイプの人間である。元気なときは、何も食べなくとも一向に平気なので、人から驚かれることがある。
必要だから食べる。必要でないから食べない。自分の考え方は理にかなっていると信じている。