歎異抄(三)
善人なをもつて往生をとぐ。いはんや悪人をや。
しかるを世のひとつねにいはく、
「悪人なほ往生す。いかにいはんや善人をや」。
この条、一旦そのいはれあるに似たれども、
本願他力の意趣にそむけり。
そのゆゑは、自力作善のひとは、
ひとへに他力をたのむこころがけかけたるあひた、
弥陀の本願にあらず。
しかれども、自力のこころをひるがへして、
他力をたのみたてまつれば、真実報土の往生をとぐるなり。
煩悩具足のわれらは、
いづれの行にても生死をはなるることあるべからざるを、
あはれみたまひて願をおこしたまふ本意、
悪人成仏のためなれば、他力をたのみたてまつる悪人、
もつとも往生の正因なり。
よつて善人だにこそ往生すれ、まして悪人はと、仰せ候ひき。